沖永良部芭蕉布協議会

沖永良部の芭蕉布

Okinoerabu Banana Fabric

芭蕉布ができるまで

糸芭蕉を育てる畑仕事に始まって、原木を剥ぎ、繊維を採り出し、糸をつくって染め、織り上げるまで。
芭蕉布づくりは今もすべて手作業で行われています。

1.糸芭蕉の栽培

芭蕉布づくりは糸芭蕉の栽培から始まります。雑草を抜き、飼料を撒いて土をつくり、葉が茂ってきたら剪定をします。5~10月にかけて年に3~5回、繊維を柔らかくするために、葉と芯を切り落として根と先端の太さを一定にします。

2.苧倒し(うーたおし)

糸芭蕉の原木が程よく熟したら、「苧(うー)」と呼ばれる糸芭蕉の繊維を採る「苧倒し」をします。苧倒しに最適な原木は、3年目のもの。最適な時期は10~2月頃で、これを過ぎると繊維が硬くなってしまいます。熟しすぎた原木(とーぱーさー)は糸の品質が落ちるので、沖永良部では使いません。

3.口割り(くりわり)・苧剥ぎ(うーはぎ)

約25枚の輪層をなす茎の断面に切り込みを入れ(口割り)、一枚ずつ剥がしていく作業を「苧剥ぎ」といいます。剥いだ皮は、太い糸が取れる一番外側の「上皮(うぁーほー)」、内側の「中苧(なーうー)」、さらに内側の上質な糸が取れる「中子(なーぐー)」、中心部の「きやぎ」に分けていきます。沖永良部では、それぞれの糸の性質に合わせて用途を使い分けています。

4.苧炊き(うーだき)

「苧」の肉部を柔らかくして繊維を取り出しやすくするため、大きな鍋にロープを張って苧の束を置き、木灰汁の上澄み液で煮ます。木灰汁は固い木の灰がよいとされ、沖永良部島では、車輪梅(シャリンバイ)などを使います。煮足りないと固くて次の工程ができず、煮すぎると繊維が切れてしまうので、煮加減が重要です。煮あがった苧は、水でよく洗います。

5.苧引き(うーびき)

煮た原皮から繊維を取り出します。1枚の原皮を2~3枚に裂いて左手に持ち、右手に「えーぴ」と呼ばれる竹ばさみを持って2~3回しごくと、糸と糸の間にある肉部が取り除かれます。やわらかい繊維は緯糸(よこいと)用に、硬い繊維や色のついているものは経糸(たていと)用に分けます。肉部は芭蕉紙などに再利用します。

6.苧干し(うーぼし)

しごきだされた繊維を、風の当たらない日陰で竿に干します。

7.チング巻き

苧の繊維を2~3本ずつ左手の親指に巻き付けてこぶし大の球「チング」をつくり、吊るしておきます。このとき、硬いものや色のついたものは取り除き、できるだけやわらかく色の薄いものを残します。

8.苧績み(うーうみ)

チング巻きから糸をつなぐことを「苧績み」といいます。右手に小刀(しーぐ)を持ち、水に浸したチング巻きの根のほうから筋に沿って繊維を裂いていきます。糸が均一に績まれていないと、布にした時の織りムラや色ムラの原因になりますので、慎重な作業が必要です。芭蕉布の制作工程で最も時間のかかる部分です。

9.管巻き(くだまき)

つないだ糸を玉にします。左手に持った管串の割れ目に糸をかけて留め、それを回しながら右手で糸を繭状に巻いていきます。

10.撚りかけ(よりかけ)

霧吹きで糸に水をかけながら撚りをかけます。撚りが甘過ぎると毛羽立ちがひどくて織りにくく、強過ぎると打ち込めず絣合わせが難しくなるうえ、布面の仕上がりもよくないので、熟練の技が必要です。

11.整経(せいけい)

布のムラを防ぐため、撚りかけをした糸はすぐに「はし」という整経機で整経します。芭蕉糸は綿や絹に比べて繊維が硬く、初心者には扱いが難しい糸です。

12.煮綛(にーがし)

絣糸(かすりいと)は、灰汁で2~5分ほど煮て柔らかくします。取り出したらよく水洗いし、軽く絞ってピンと張り、糸の束の両端を竿にかけて整経のたるみをとります。経絣は絣柄に合わせてずらし、寸法通りに柄を組み合わせます。できた糸は「うばさがら」と呼ばれる芭蕉の皮を巻き付けて、紐で固く結びます。

13.染色

糸の束を藍や草木で染め、結び目を解いて湿気を与えてから「うばさがら」を外します。絣の入った糸は、再び管に巻きます。

14.機の準備

整経した地糸に縞用の染糸や経絣糸を組み合わせて、筬(おさ)に通す仮筬通しをし、巻き取りを行ないます。巻き取られた糸から筬を外し、機の綜絖(そうこう)に糸を通し、一対ずつ順序良く筬に通します。

15.機織り

機をたてた後、機織りを始めます。緯糸は織る前に軽く水に浸し、経糸は絶えず霧吹きで湿気を与えながら慎重に作業をします。1反を織るのに1~1ヶ月半ほどかかります。

16.仕上げ

毛羽や切れの繕いを済ませた反物は、汚れや織り滲みをきれいに洗い落として上質の灰汁で煮ます。煮えムラが生じないように棒で攪拌しながら行い、鍋から取り出した後は、よく水で洗って干します。その後、灰汁でアルカリ性に傾いた反物を中和させるために「ゆなじ」に2時間ほど漬けます。

【ゆなじ】米粥と米粉に水を加えて発酵させた液。酸性の白濁した液体で、独特の酸っぱいにおいがする。使用する1週間前には作っておく必要があり、発酵を促すために1日に2回攪拌する。

ゆなじから出した反物は、よく水で洗い、風通しの良いところで七分干しにします。取り込んだ反物は2尺ほどの長さにたたみ、全体に湿気がいきわたるように布でくるんで押し板をしておきます。

七分乾きの反物を、斜めの方向に交互に手で引き延ばす「ちんまき」を行います。次に、反物の両耳を親指と人差し指で引き伸ばして、布の幅を出します。その後、長さを出すために、反物の両端を二人で引っ張る「布引き」を行います。

面を平らにして、結び目を目立たないようにするために、伏せた湯呑茶碗で布をしっかりこすります。

少し乾かし、再度「ちんまき」と「布引き」「布目そろえ」を繰り返します。仕上げに、折り目を伸ばすためにアイロンをかけ、湿気も取り除きます。

これだけの手作業を経て、やっと沖永良部の芭蕉布が完成します。